2011年12月27日火曜日

風果つる街 著:夢枕獏



将棋連盟に属さずに、賭け将棋の収入のみで生きているいわば裏のプロ棋士、真剣師の孤独な勝負の記録。
銀髪の真剣師岩倉が放浪地でに日当を稼ぐ勝負で出会う様々な人々と将棋を通じた一見異常だが、どこか人間身もある交流を描く。

獏さんが書く、特定のものに打ち込む男たちを描いたシリーズは神々の山嶺で出会って、鮎師を読んでこれで3冊目。
生きるすべを知らない不器用な男が得意とする唯一のものに対する姿勢は、ただただかっこいい。
風果つる街は将棋の話だけど、将棋を知らなくても十分楽しめる。
自分も駒の動きを知っている程度で、あまり詳しくはないが特に困ることは無かった。
重要なキーになるとある型が出てくるので、将棋の定石や型を知っているとさらに楽しめるだろう。
ただ、それよりも主人公が出会う将棋しかない男たちの生きざまは、ただの会社員としてぼけっと生きる自分には羨ましくも映る。
そんな彼らの生き方は悩む息子に語る岩倉のこの台詞でも表れている・・・

「人間ってのはよ、結局、その人間のやり方でしか生きられねえようにできてんのさ。どうじたばたしたってよ。おれは、こういう風にしか生きられねえ。おまえも、おまえのようにしか生きられねえんだよ。だから、安心しろ」
風果つる街298ページから引用

会社員としてぼけっと生きる、放浪やあるものに一心不乱に賭けるのは羨ましく映るが人にはそれぞれの生き方があってそれはそれでいいと。
あとがきでも書かれているように、人は誰しも放浪に憧れている部分はあるがそれはなかなか実現できないと思う。
その羨望を獏さんの男の生きざまシリーズを読んで少し満たすのが良い具合なのかもしれない。

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